2015年10月16日金曜日

日本の音大に行くべきではない理由   (その1)

以前に「日本の音大に行く価値はあるのか?」という疑問についてブログに書いたが、日本の音大に進学することを絶対勧めないことが、私が音楽業界で評判が悪い一番の理由だ。どの音大も学生集めに苦労しているのに、やる気と才能のある若者ほど私が留学を勧めてしまうから。さらにいうと日本の音大に行かずに、少しでも早く留学することを勧めるからだ。

しかし、最近少し流れが変わってきたように感じる。私のところには知り合いを介して、あるいはブログやホームページを見て留学に関して相談してくる若者が多い。そういう若者の中に、日本の音大やその付属高校に在学中にそこの先生に「君は才能があるから日本の音大に行くべきではない。中退してでも早く留学したほうが良い」と言われたという人が現れるようになったのだ。しばらく前までは「大学までは日本で出ておいたほうが良いよ」という先生が多かったのに。

私はこの25年間ずいぶん沢山の音楽家の留学に関わってきた。中にはドイツやオーストリア、ハンガリーなどのオーケストラに入った人も多い。先日も彼らの何人かと集まって話す機会があったがそこで誰もが口を揃えて云うのは「ともかく、なるべく早く日本を出ることですね」ということである。なぜそうするべきなのか、要点をまとめてみた。

1.日本の音大は学費が高過ぎるので、卒業後に留学が難しくなる
世の中には良心的な先生もたくさんいるのだが、普通科の小学校から高校まで行った人なら音大に進学するまでにはすでにかなりのレッスン料を個人レッスンに使っている。高校までを音楽科に行った人の大半は私立なので、その場合も授業料は公立校より高いし、音楽専攻だからといって個人レッスン料をまったく使わないわけではない。また、講習会やマスターコースに行くのにもお金がかかる。楽器によっては非常に高価なものもあるので、それも経済的な負担になる。その上で、国立の東京藝術大学ですら初年度納付金は982,460円、その後の授業料は535,800円にもなる。少々データが古いが(2012年度)私立音大の初年度納付金はほとんどが200万円を超え、4年間の授業料は800万円にもなる。通学生だとしても、楽器、楽譜代や通学費、その他の行事参加費などを含めると日本の音大に行く場合にかかる経費は国公立で400万以上、私立だと1000万以上にもなる。
周囲を見ていても、才能があって留学すれば伸びるのになあ、と思う学生でも「もうこれ以上親に迷惑をかけられないですから、仕事しないと」と言う人が結構いるが最初から
ヨーロッパの大学に行っていれば、経費は日本の国公立と比べても半分程度で済んだに違いない。これは、アメリカの大学についても同じで友人でザルツブルク・モーツアルテウムの教授が「アメリカの大学で才能があると思う学生に留学を勧めると、みんなもうこれ以上勉強にお金は使えないから卒業したら働かなくちゃならないと言う」とのことだった。

ウィーン国立音楽大学の学費は1ゼメスター(半期)あたり726.72ユーロ、日本円にすると10万円程度だ。ドイツの音大の場合基本的には無料だが、日本の音大ですでにバッカローレにあたる本科を卒業してしまってからコンタクトストゥディウムなどに留学すると10000ユーロを超えるような「高額な」授業料が発生することもあるので、日本の音大を卒業してしまう前に留学することがおすすめだ。

ちなみに知恵袋にこんな回答をしている人がいたが、日本の音大の回し者なのか、とんでもないお金持ちで大きな家に住んで立派なピアノを借りたのだろう。「日本の音大とあまり変わらないか少し安い程度です」「十数年前で初年度300万程度の出費でした(飛行機や講習会費込)」とのことだが、地方出身者が東京の私立音大に入ってピアノが弾ける下宿を借り、食費などすべての経費を入れたら一体いくら位になるだろうか?

参考までにウィーンの場合平均的な学生用のアパートは400〜600ユーロ。食費は恐らく一人暮らしで外食をしなければ120ユーロ前後、交通費は市内全域乗れるものが1ゼメスター150ユーロ(7、8月は別途29.5ユーロいずれも2015〜16年)なので概ね月30ユーロ、オペラとコンサートに月5回ずつ立ち見で通ったとして50ユーロ程度、その他諸経費込みで概ね学費込みの総額10000ユーロと考えて不可能ではない(贅沢はできないが)。もっとも私が学生の頃(1985〜87年)は月8万円の仕送りで夏休みに日本に帰る航空券まで買えた。

ヨーロッパの大学には受験料とか入学金というものもない(その後ドイツにはあるという情報を頂きましたので調べてみます)。

(続く)





10 件のコメント:

  1. ドイツの音大の受験料は30ユーロです。
    出願の際に振り込み領収書を同封しなければなりません。
    昔は無料だったんですけどね。
    受けられなくても返金ありません。
    複数校に願書を出しても試験日が結構重なって、受けられない学校があるので、示し合わせて日程をダブらせてるんじゃないかと勘繰りたくなります。
    www.villa-musica.de

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    1. 情報有り難うございます。検索してみますね。名称はPrüfungsgebührでしょうか?

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    2. Münchenの場合単にGebührとなっていますね。1つの科を受ける場合30Euro、2つ以上の科を併願すると10Euroずつ追加なのですね。
      http://website.musikhochschule-muenchen.de/de/index.php?option=com_content&task=view&id=803&Itemid=798

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  2. 私自身、日本の音大も出て、留学もしました。留学で得られるものはたくさんあります。ですが、お金の話について、書かれた内容は正しくありません。

    ◆実力があるなら、そんなにお金の心配はいらない◆
    国内の奨学制度で、返済不要の奨学金もあります。1000万円規模の奨学もあり、私も、私の友人も何人も、この奨学をもらいました。留学費用はもちろん、国内の音大に在学していてももらえるものもあります。実力があれば、800万や1000万の学習費用は問題になりません。

    ◆レッスン代が安い=収入が低い◆
    ドイツなどのレッスン代は安いです(大学の学費ではない、レッスン代です)。日本の大学の先生などでは、1レッスン何万円の世界ですね。確かに高いです。
    1レッスンが1万円だとすると、もし、2歳から30歳まで、毎週レッスンに通うと、1400万円かかります。レッスン代が5000円でよければ、700万円も安くなります。すばらしい。
    ・・・ですが、その後、自分が仕事をはじめ、30歳から65歳まで、毎週10人レッスンしたとき、1レッスンが5000円安くなると、年間で250万円減収になります。35年トータルでは8750万円の減収です。レッスン代相場が低いということは、収入が低いということに他なりません。

    将来、音楽の世界で仕事をするつもりがある人は、勉強するのにお金がかかることを惜しんではいけません。お金と才能と努力の結晶だからこそ、結実した後の商品価値が高くなるのです。レッスン代が安いといって喜んでいる学生は、将来、自分が何千万も損することを考えていないだけです。

    ◆大学の学費がかかるのは、すべての分野で同じ◆
    ドイツなど、高等教育が公費(税金)で賄われるのに対して、日本は、すべての高等教育への私費の割合が大きいです。音楽に限らず、すべての学問分野において、日本で勉強するとお金がかかります。ドイツへいけばタダ同然です。経済学でも、工学でも、すべてに共通します。大学にかかる学費がもったいない、日本の大学は行く価値なし!ということでしょうか?

    加えて、ドイツ人が働いて稼いだ税金で、タダ同然に勉強ができるから、そのほうがいい、というのは、まるで、デパ地下へいけば、試食品でおなかいっぱいになれるからいい、という発想に共通した卑しさがありませんでしょうか。現地の税金で勉強させてもらったなら、せめてそれを返すぐらいは現地で働いて納税しないといけないと思います。

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  3. 私は反対意見です。

    ・日本での給付型奨学金の割合はあまりに低く、ほとんどが貸与型。800万とか1000万とかの給付型奨学金を受けられる人はほとんどいない。

    ・日本とドイツやオーストリアの個人レッスンのレッスン代はほとんど変わりません。ですから個人レッスンで収入を得ている人の場合の収入はさほど変わりません(但し税率は高いですし、収入が少なくても所得税は多いですが)。ですので、2番めの指摘もまちがっています。また、日本で非常に高額の個人レッスン代を取っている先生方の個人レッスンが値段相応に素晴らしいとは思いません。その件についはまた書きたいと思います。

    ・日本で授業料が高いのは医大と音大が顕著ですが、医大の場合ほぼ就職先なり仕事が保証されています。音大は投資した学費を回収するのが非常に難しい大学です。

    ・最後の指摘も間違っています。ヨーロッパ各国が国策として学費を無料、ないし非常に低いレベルに抑えているのは大学のレベルを上げて、世界的に優秀な人材を吸収したいからです。ですから、残酷な点では非常に優秀な留学生の多くは卒業後帰国せずにそのままドイツなどに残ってしまいます。これは出身国にとっては深刻な問題ですが、今の日本の教育制度、特に音大は事業として生徒から学費を取ることに専念しており、それに見合った優秀な学生を輩出できないのだし、政府もそれを放置しているのだから仕方がありません。優秀な人ほど、現地の音大卒業後現地のオーケストラなどに残って沢山税金を払っています。

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    1. 問題を単純化しすぎてしまって、矛盾に陥っていませんか?

      >最後の指摘も間違っています。ヨーロッパ各国が国策として学費を無料、ないし非常に低いレベルに抑えているのは大学のレベルを上げて、世界的に優秀な人材を吸収したいから

      大学の無償化は、すべての人に均等に教育の機会を与えるという人権の観点からも考えられることです。国際人権A規約13条において、高等教育について「無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」とされています。

      留学することで、日本での音楽教育とは違う刺激を得ることができることには、何ら否定しません。優秀な若い音楽家が海外での経験を通して、成長することも事実です。

      杦山さんが、ドイツを初めとするヨーロッパの音楽教育が絶対的に優れているという前提に立つならば、無償にしなくても、優秀な人材が集まります。逆説的に言えば、無償にしないと優秀な人材が集まらないと言うのであれば、教育そのものには魅力がないというのと同じになります。これは、大きな矛盾ですね。

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    2. >日本で授業料が高いのは医大と音大が顕著です

      音大の授業料が、他の標準的な学科よりも高いのは事実ですが、医学部を引き合いに出すのは大きな間違いです。

      2012年の大学学費ランキングを見てみると
      http://www.daigaku-gakuhi.com/igakubu.html
      http://www.daigaku-gakuhi.com/ondai.html

      私立医学部29校の平均初年度納入金は814.7万円です。対する私立音大118コース(音大のデータはコース別になっていますので)の初年度納入金平均は199.6万円。桐朋・東京音大・武蔵野・国立の4校の器楽学科平均でも236.4万円です。

      たとえば、理学部(数学)の私立平均155.2万円と比較すると、音大は45~80万円高いのは事実です。ただし、医学部は660万円高いですから、比較対象にもなりません。

      http://www.daigaku-gakuhi.com/suugaku.html

      追加投資した数十万円~数百万円が、回収できるのか?といわれれば、それはわかりませんが・・・

      音大に行くのは、音楽をすることが好きで、音楽を勉強したいと思っている人だけです。音楽をするには、楽器も必要、楽器を演奏できる環境も必要。大学に行こうと行かなかろうと、数百万円から数千万円の費用をかけて音楽をしているのです。大学の学費が数十万円高いから、やめた方が良いというのは、あまりに野暮な話でしょう。

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    3. >日本での給付型奨学金の割合はあまりに低く、ほとんどが貸与型。800万とか1000万とかの給付型奨学金を受けられる人はほとんどいない。

      有名なロームミュージックファウンデーション、久しぶりに見たところ、4年間支給がなくなったようなので、1000万オーバーは今はないようですが、それでも、2年間で720万円まで支給されます。

      全員が2年間もらっているとして、現在の奨学者が30名ですから、毎年15名以上採用されていますね。

      >優秀な人ほど、現地の音大卒業後現地のオーケストラなどに残って

      さて、現地のオーケストラに残れるほど優秀な人が毎年何人いるのでしょうか?もちろん、どのようなオーケストラかにもよりますが、日本にツアーに来るクラスのオーケストラとなると?

      「優秀」という表現が、曖昧すぎて、何を意味しているのかわかりませんが、ツアーができるクラスの有名オーケストラの団員や、現地の大学の正教員(アシスタントではなく)、ソロ活動で生計が立てられる位のことを「優秀」というのであれば、「優秀」な学生には、十分に、奨学金を得るチャンスがあります。

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    4. ・日本とドイツやオーストリアの個人レッスンのレッスン代はほとんど変わりません。ですから個人レッスンで収入を得ている人の場合の収入はさほど変わりません

      これについては、私も少し問題を単純化していたと反省します。管楽器についていえば、日本のレッスン代の相場が安く、ヨーロッパとあまり変わらないと思います。
      その一方で、音大の人数構成比で多数派を占める、ピアノについては、レッスン代の相場は日本のほうが高いです。弦楽器、声楽も動揺の傾向にあります。

      >また、日本で非常に高額の個人レッスン代を取っている先生方の個人レッスンが値段相応に素晴らしいとは思いません。

      とても、危険な香りのする表現ですね。レッスン代に値段相応とかってあるのでしょうか?値段不相応とかって、自分が価値を理解できないだけという可能性は考えないのでしょうか?

      昔気質の日本の大先生は、往々にして、面倒見が悪い。何万円もレッスン代を払って、一言なにか言われて、終わってしまったり。私も経験あります。

      でも、その一言が、十年後に、ふと理解できて、音楽の世界が開けたりする。一線のソリストであるには、先生のコピーでは意味がないし、自分で自分を磨けなければ、そもそもやっていけない。そのとき、かつての師匠の一言が、積年の後に、インスピレーションを呼び起こしたりする。すばらしいレッスンです。

      でも、ほとんどの人には、その価値は理解できない。本当は、自分の理解力不足だったりするのですが。

      誰にでもわかりやすくないから、いけない?そんなに、誰にでもわかりやすくて、理解習得できるようなものは、一線の舞台では何の役にも立たないのです。誰にでも出来るのだから。

      面戸見よく、わかりやすいレッスン。これも、もちろん、大切です。それを必要とする人は多い。今時の音大教育では、みな、割り切って、そういう教育もしていますね。

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