以前に「
日本の音大に行く価値はあるのか?」という疑問についてブログに書いたが、日本の音大に進学することを絶対勧めないことが、私が音楽業界で
評判が悪い一番の理由だ。どの音大も学生集めに苦労しているのに、やる気と才能のある若者ほど私が留学を勧めてしまうから。さらにいうと日本の音大に行かずに、少しでも早く留学することを勧めるからだ。
しかし、最近少し流れが変わってきたように感じる。私のところには知り合いを介して、あるいはブログやホームページを見て留学に関して相談してくる若者が多い。そういう若者の中に、日本の音大やその付属高校に在学中にそこの先生に「君は才能があるから日本の音大に行くべきではない。中退してでも早く留学したほうが良い」と言われたという人が現れるようになったのだ。しばらく前までは「大学までは日本で出ておいたほうが良いよ」という先生が多かったのに。
私はこの25年間ずいぶん沢山の音楽家の留学に関わってきた。中にはドイツやオーストリア、ハンガリーなどのオーケストラに入った人も多い。先日も彼らの何人かと集まって話す機会があったがそこで誰もが口を揃えて云うのは「ともかく、なるべく早く日本を出ることですね」ということである。なぜそうするべきなのか、要点をまとめてみた。
1.日本の音大は学費が高過ぎるので、卒業後に留学が難しくなる
世の中には良心的な先生もたくさんいるのだが、普通科の小学校から高校まで行った人なら音大に進学するまでにはすでにかなりのレッスン料を個人レッスンに使っている。高校までを音楽科に行った人の大半は私立なので、その場合も授業料は公立校より高いし、音楽専攻だからといって個人レッスン料をまったく使わないわけではない。また、講習会やマスターコースに行くのにもお金がかかる。楽器によっては非常に高価なものもあるので、それも経済的な負担になる。その上で、国立の
東京藝術大学ですら初年度納付金は982,460円、その後の授業料は535,800円にもなる。少々データが古いが(2012年度)
私立音大の初年度納付金はほとんどが200万円を超え、4年間の授業料は800万円にもなる。通学生だとしても、楽器、楽譜代や通学費、その他の行事参加費などを含めると日本の音大に行く場合にかかる経費は国公立で400万以上、私立だと1000万以上にもなる。
周囲を見ていても、才能があって留学すれば伸びるのになあ、と思う学生でも「もうこれ以上親に迷惑をかけられないですから、仕事しないと」と言う人が結構いるが最初から
ヨーロッパの大学に行っていれば、経費は日本の国公立と比べても半分程度で済んだに違いない。これは、アメリカの大学についても同じで友人でザルツブルク・モーツアルテウムの教授が「アメリカの大学で才能があると思う学生に留学を勧めると、みんなもうこれ以上勉強にお金は使えないから卒業したら働かなくちゃならないと言う」とのことだった。
ウィーン国立音楽大学の学費は1ゼメスター(半期)あたり726.72ユーロ、日本円にすると10万円程度だ。ドイツの音大の場合基本的には無料だが、日本の音大ですでにバッカローレにあたる本科を卒業してしまってからコンタクトストゥディウムなどに留学すると
10000ユーロを超えるような「高額な」授業料が発生することもあるので、日本の音大を卒業してしまう前に留学することがおすすめだ。
ちなみに知恵袋にこんな
回答をしている人がいたが、日本の音大の回し者なのか、とんでもないお金持ちで大きな家に住んで立派なピアノを借りたのだろう。「日本の音大とあまり変わらないか少し安い程度です」「十数年前で初年度300万程度の出費でした(飛行機や講習会費込)」とのことだが、地方出身者が東京の私立音大に入ってピアノが弾ける下宿を借り、食費などすべての経費を入れたら一体いくら位になるだろうか?
参考までにウィーンの場合平均的な学生用のアパートは400〜600ユーロ。食費は恐らく一人暮らしで外食をしなければ120ユーロ前後、交通費は市内全域乗れるものが
1ゼメスター150ユーロ(7、8月は別途29.5ユーロいずれも2015〜16年)なので概ね月30ユーロ、オペラとコンサートに月5回ずつ立ち見で通ったとして50ユーロ程度、その他諸経費込みで概ね学費込みの総額10000ユーロと考えて不可能ではない(贅沢はできないが)。もっとも私が学生の頃(1985〜87年)は月8万円の仕送りで夏休みに日本に帰る航空券まで買えた。
ヨーロッパの大学には受験料とか入学金というものもない(その後ドイツにはあるという情報を頂きましたので調べてみます)。
(続く)